人間形成に重要な「遊び」人間のいのちは二拍子のリズムまた、昔は自宅で看取るというのがこのように誕生や死を受け止める状況子どもは興味を持った「遊び」には乳幼児が人として成長していく中で、そこで、「死から目をそらせているのではなく、死を意識した上でどのように向き合うかを考える必要がある」と佐伯先生は書いています。いつか必ず死が来るのだから、それまでをどう生きるかが大事。死を意識から消すのではなく、しっかり向き合っていきましょうということですね。私は、核家族化や都市化が進んだ近代社会では、いのちの本質が見えにくくなったと考えています。出産や死が家庭から遠ざけられた現代では、生と死という重大な場面を認識することが難しくなったことは否定できないでしょう。昔は赤ちゃんが産まれるのはだいたい自宅でした。私の家でも、6歳の時に母が妹を出産しました。お産婆さんが家にやってきて、近所の人も手伝いに集まり、みんなで準備をしていると、やがて産まれそうという緊張感が伝わってくるんですね。ちょっと庭で遊んでなさいと言われて、しばらくすると「おぎゃー」という泣き声。呼ばれて行ってみると、しわくちゃな赤ちゃんが産まれていました。その時のほっとした空気や、みんなのうれしそうな様子を覚えています。一般的でした。祖父や祖母の臨終に接して、堪えきれず涙を流す親の姿に、「人の死ってこんなに悲しいんだ」と子どもなりに感じたものです。が大きく変化した現代社会では、いのちについて言葉で教えるだけでは不十分でしょう。毎日の生活で人や動植物といったさまざまないのちと触れ合う「体験」(=遊び)を重ねる中で、人として最も重要な「いのちを大切にする心」が育まれていくのではないでしょうか。夢中になって取り組み、自分でいろいろと工夫するものです。そういう中で「感じたり考えたり気づいたり」することによって、大事なことが思い浮かんだり定着したり、心の中に染みていくのではないかと思います。遊びの担っている役割が非常に大きいことは間違いありません。しかし、残念ながら現在は、「お受験」という言葉に象徴されるように早期の知識教育に関心が向けられ、子ども本来の成長が妨げられてしまってはいないでしょうか。多くの子どもが自由にのびのびと遊ぶ機会を奪われているような気がします。私が5〜6歳の頃、住み込みで寺の手伝いをしている70歳近いおじいさんがいました。身寄りのない人で、私をとてもかわいがってくれました。器用な人で、裏の竹やぶから竹を切ってきて竹とんぼや竹馬を作ったり、糸の縛り方とかノコギリや小刀の使い方などを教えてくれたりもしました。竹とんぼは小刀で削って作るのですが、どう削るかで飛び方が全然違います。私の手先が器用なのは、その人のおかげです。この経験は、子ども時代の私にいろいろなことを考えさせ感じさせる大事な教材だったのだろうと思います。遊びの意味には他に、いろいろな友だちとの遊びを通して、一人ひとりの考えに違いがあることに気づき譲り合うことの大切さを知ったり、みんなと協力することの意味が分かり感謝の気持ちが芽生えたりということもあります。すれ違いやけんかも起きる中で、失敗を繰り返して最後までやり遂げ、できた時の喜びを味わうこともあるでしょう。そうすると、またやってみようという意欲が生まれ、できない子がいた時に教えてあげるということにもつながります。ところで、私は自分の講義を受けている学生たちに、幼稚園や保育園での「楽しい思い出は?」と聞いてみることがあります。キリスト教系ならクリスマスとか楽しい行事がたくさんあるんですが、仏教系の園ですと、残念ながらなかなか答えが出てきません。仏教園の印象を尋ねると、「厳しい」「暗い」「きつい」など、お寺の園はとにかく真面目。挨拶しましょう、正座しましょう。これも大事なのですが、子どもにとってはあまり楽しくありません。現在、私は認定こども園の理事長として運営に関わっています。私が住職をしている寺院が母体です。日頃から、何が園児たちの遊びにつながるかなと考えておりまして、例えば、三仏忌や彼岸、お盆などにはお参りを行いますが、寺の本堂は珍しいものばかりで子どもたちは興味津々です。そこで、行事の終わりに、太鼓でも木魚でも鐘でも「どれでもいいから、一つ鳴らしてから帰ろう」と言うと、それぞれ思い思いの音を鳴らしていく。すると、満足した子どもたちは本当に楽しそうに園に帰っていきます。お話は静かに聞く。正座して手を合わせてお参りする。こういったことも、もちろん大切です。でも子どもにとっては窮屈なことには違いありませんから、ほっとできる「場」や「時」を用意してあげることが大事だろうと思います。子どもは体験から学んでいくものですから、理屈ではなく、何かが心に染み通っていくような行事にしよう、そんなことを心がけています。人間のいのちのリズムは二拍子だと私は思います(『仏教保育のこころ』143頁〜参照)。動と静、緊張とリラックス。声を出す・出さないといった二つ会場の様子令和7年4月1日発行第729号(2)
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