静かなる保育制度改革の自治体は地方版こども計画と第3期子ども・子育て支援事業計画を重ねるかたちでつくっていくことになるだろうと思います。これまでの需給計画とは意味が違ってきますから、第3期事業計画は重要です。こども誰でも通園制度にしても、自治体がそれぞれ独自の条件をつけることを検討したほうがいい。しかし、時間のない中で、地方版子ども・子育て会議が機能しないまま、これらの計画はうやむやに決まっていくのではないかと危惧しています。このように保育分野では、2025年を一つの節目として大きな動きが相次いで起こります。私はこれを「2025年問題」と言っています。ほかにも、国の共済制度の見直しの中で社会福祉法人の退職共済の見直し、国のデジタル化の一環でシステム標準化・DX・ICTのスタートといった動きも同時に起きてきます。また、令和9年度に新しい教育要領・保育指針が告示されますので、来年にはかなり具体的な検討に入るでしょう。その本質的なベースになるのが「こどもの育ちの基本的な考え方」(図1)です。その基本イメージは、左側に心の安全基地となる愛着形成があって、その愛着形成をベースにして、右側のように直接・間接に多様で豊かな関係性が同心円上に広がり、その中で身体・心・社会(環境)の全ての面で一体として子どもが成長していくというものです。これはかなり重要な概念ですので、ぜひ頭の中にしっかり留めておいてください。全ての子どもを、3歳になる前の愛着形成を踏まえてみるようにするという観点を押さえていただきたいと思います。そして、6月初めには子ども・子育て支援法、児童福祉法、認定こども園法、母子保健法、児童手当法と、さまざまな改正法がパッケージで成立し、今後急激に実現していくことになります。私はいま「静かなる保育制度改革」が進んでいると思っています。静かだけど本質的に大きな保育制度改革が進んでいる。なぜ静かなのかというと、今までのように文部科学省や厚生労働省、内閣府といった特定の官庁が特定のテーマで分野別の何かの改革をしようとしているわけではなくて、結果的に保育制度改革と呼ばざるを得ないような動きになってきているからです。誰かが意図的にやっているわけではないのです。これまで行われてきたさまざまな改革の中で、例えば、公立か私立かという公私の垣根が低くなり、幼保の垣根が低くなりました。認可・認可外の区別もこども園に関してはあまり意味がなくなり、施設・非施設についても家庭的保育やベビーシッターのように園舎のない保育があります。そして、今度崩れようとしているのは定型・非定型。こども誰でも通園制度は非定型的保育ですが、これが給付事業という本丸の制度に位置づけられることになります。旧来の幼稚園や保育園は施設型給付でしたが、こども誰でも通園制度は時間単位の給付制度になります。しかも、それを実施するのは保育園や認定こども園、幼稚園、地域子育て支援拠点といった幅広い事業者です。これは従来の法制度からは考えられないことで、法令的に収拾がつかなくなるので「保育」とは呼んでいません。「通園」ですね。でも、これも含めてやはり保育制度改革と呼ばざるをえないでしょう。こうやって壁や垣根がなくなり、その先にある子どものための「保育」とはいったい何なのか、保育の本質というものが問われることになるのだろうと思います。これから全ての子どもに提供されることになる「保育」。全ての子どもに共通する「保育」とは。誰のための何のための「保育」なのか。そして自分たちの存在意義はどこにあるのか。その考えを突き詰めていった先に、子どもの数は減ったとしても、いままでと違う新しい発想やチャンスが待っているのかもしれません。いま保育の世界に、子どもの数を増やすという発想ではない、何か新しい動きが生まれようとしています。ここ1年くらいでいろいろな計画が現実化していきますので、ぜひその辺りを頭の片隅に置きながら変化に対応していただけると、活路が開けるのではないかと思います。出典:幼児期までのこどもの育ちに係る基本的な指針(仮称)について【参考資料3】https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e9006626-c775-4899-bbc5-580b8028c311/891fc7cd/20230510_councils_kodomo_seisaku_kyougi_S7m2hTQa_13.pdf(3)第722号(図1)こどもの誕生前から幼児期までの「こどもの育ちの基本的な考え方」
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