課題の多い「こども誰でも通園制度」子ども政策の「2025年問題」出て活躍できれば、しっかり力のついた人間が未来の支え手となるだろうと思っています。極論ですが、苦労して頭数を増やすことができても、その子どもたちが不登校になり、引きこもってばかりいたとしたら、未来の支え手としてはパワー不足でしょう。すでに青年期の若者が引きこもるなど、その傾向が見え始めています。これは支え手のパワー、つまり「質」の問題です。少子化対策には量的な問題と質的な問題があると、私は考えています。今まではずっと量的な問題への対策を講じてきて、失敗し続けてきたのではないでしょうか。保育は、この質の面での少子化対策にこそ貢献できるのです。質の高い保育には、未来の支え手としての子どもの成長を支える力があるだろうと思っています。それで成果を上げることができ、社会に必要とされるのであれば、そこにもっと公費が投入されていいということになります。もう数を取り戻すという発想ではなく、少ない数でも質を高めることを考える時代なのです。各園の経営においても、園児は減るかもしれませんが、クオリティを上げることによって持続可能性を高めることができるだろうと私は考えています。しかし、質の高い保育を提供すればそれでいいという簡単な話ではありません。人と関わる経験が少なくなっていることをはじめ、子どもの育ちの姿に変化、いや異変が生じています。子どもは、いやおうなしに家庭や地域社会の影響を受けるものです。残念ながら、子どもにとって最も身近で重要な家庭や地域社会という、いわば「子ども環境」が劣化していると考えられています。この子ども環境に対しても貢献し、「子どもの育ちの姿」の正常化につなげるという役割までもが、いま保育に期待されているのではないでしょうか。もともと園には多様で豊かな関係性を生み出す機能がありますが、その機能に磨きをかけ、特に困難を抱える家庭や子どもに向けて、もっと意識的・積極的に保育を提供していくべき時代なのだろうと思います。そして、こうした流れが未就園児への支援という発想につながっています。いまや、コミュニティが希薄になった地域の中で誰にも相談できず一人で抱え込みやすい専業主婦の方が、共働き家庭よりも子育ての不安・負担「子どもの育ちのための仕組み」を高めているということが明確になっているのです。いま未就園児は160万人前後だろうと思います。そのほとんどが3歳未満児で、3歳未満児全体の6割強に当たります。実は、ここで最も虐待が発生しており、特に乳児の虐待死亡事例が一番多くなっています。この未就園児に光を当てるというのが「こども誰でも通園制度」です。未就園児に光を当て、その育ちを保障するという子ども主体の発想で、仕組みとしては大変素晴らしいと思います。しかし、運用上の問題を抱えていて、うまくいくのかどうか心配されています。問題の一つは、一時預かりとの交通整理が行われていないことです。一時預かりは、冠婚葬祭や通院のような緊急一時的な用件、あるいは親のリフレッシュのために利用できるもので、いい意味で「親のための仕組み」です。一方、こども誰でも通園制度はなので、本質が違います。また、一時預かりは補助事業で市町村の任意です。義務ではないので、実施の有無や予算は自治体によって千差万別です。そこをきちんと整理しないと、市区町村の担当者が十分理解できずに混乱が生じ、現場の園も困ることになります。もう一つの問題は、財源が厳しいので、制度を理想のかたちにもっていくのが難しいということです。いまは試行的事業として補助事業で行われていますが、本格実施となる令和8年度からは、新たな給付事業として時間単位で給付されることになります。地方の裁量による補助金ではありません。試行的事業では1か月の利用上限は10時間です。国は本格実施のときにはもう少し伸ばそうとしているようですが、果たしてその時間でも十分なのかどうか。とはいえ、100万人利用するとして月10時間でおよそ年間1200億円と、財政的にかなり厳しいものとなっています。そのうえ、一日中ひっきりなしに登園降園時間が生じるような仕組みでは、職員体制上できるわけがありません。子どもの健やかな育ちという本来の目的を果たし、現場が安定的に保育を提供できるようにするには、どう収拾するのか。まだ課題が残されています。これまでは、あらゆるエネルギーが待機児童問題の解消に向けられてきました。未就園児が急にクローズアップされてきたのは、この待機児童問題がピークアウトしたからです。何万人もいた待機児童ですが、去年は全国で2千数百人となりました。さらに少子化が加速しているので、一般的な地域では数年で待機児童がほとんどいなくなります。東京23区でも定員割れとなり、区立保育園の統廃合や私立幼稚園の閉園が始まっているというのが実態です。そういう状況の中で未就園児に目が向くようになり、こども家庭庁が誕生し、こども基本法が制定されました。同時に、内閣府のもとにあった三つの大綱(少子化社会対策大綱、子供・若者育成支援推進大綱、子供の貧困対策に関する大綱)が一本化され「こども大綱」となりました。都道府県・市町村は、この大綱に基づいて地方版の「こども計画」を作成することとされていて、これは2025年4月スタートというのが一般的なかたちになっています。さらに、奇しくも時期が重なり、2025年4月から子ども・子育て支援制度の第3期市町村事業計画が始まります。2020年度〜2024年度の5年間を期間とする第2期事業計画が終わりに近づいていますので、市町村は今年度中に第3期の計画をつくらないといけません。おそらく多く第722号(2)
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