202310
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教育学博士である今福理博先生は、発達心理学の観点から子どもの非認知能力についてお話しされました。まず、生物としてのヒトの脳と心の育ちについて考えるにあたり、ヒトは環境の影響を受けながら、長い時間をかけて脳を発達させる生物であるという前提を示されました。発達の基盤となるのは「愛着形成」です。 「この時期に愛着を形成することが、人間に対する基本的信頼感を育み、その後の発達や人間関係の基盤となっていきます。 「不確実性の時代」といわれる例えば、養育者が抱っこすると、赤ちゃんは体の中の感覚である『内受容感覚』で心地よさや安心感を得ると同時に、優しい声や笑顔(愛着行動)といった『外受容感覚』(=五感)への刺激が連動し、心地よさをもたらす存在として人を認識するようになっていくのです。この内受容感覚を感じやすい子は人に対してより積極的になるため、社会性の発達につながるといわれています」。これを乳児の母親へのアイコンタクトの多さから示した今福先生らの研究は、乳児の内受容感覚が社会性と関連することを世界で初めて実証したものだそうです。これからの時代に求められるのは、解答を出すことよりも、正解が分からない中で最適解を見つける力。OECDは、幼児期に育てるべき資質・能力として「社会情動的スキル」、いわゆる「非認知能力」を挙げています。これは、やり抜く力や自己制御(実行機能)による「目標の達成」、思いやりや共感による「他者との協働」、自尊心(自己肯定感)などによる「情動の制御」といったスキルです。こうした非認知能力を測る一例として、目の前に置かれたマシュマロを一定の時間食べずに我慢すればもう1つもらえるという"マシュマロテスト”があります。「欲求に打ち勝つ成功体験が増えることで自己肯定感が高まり、自分のことを好きになっていく。自己制御の能力は長期にわたって人生に影響するようです。「こうした目の前の欲求を自己制御するなどの非認知能力には、脳の前頭葉の活動が関わっています」。前頭葉は3〜5歳にかけても徐々に発達していきますが、2歳頃はその発達が未成熟なので、イヤイヤ期が起こるのは仕方がないそうです。経験を積み重ねる中で前頭葉が発達し、だんだん抑制できるようになっていくため、それまでは発達を促すような適切な関わりを心がけることが大切になります。子ども同士のけんかでも、それぞれの欲求を受け止め、気持ちを表現することを促して、どうするべきかを一緒に考えていくことが大切。大人は介入し過ぎず、解決を手助けします。そのほか、非認知能力を育むものとして、大人の関わりや友だちとの協力、絵本の読み聞かせ、自然の中での遊びなどについてのお話があり、こうしたスキルは数値化することが難しいですが、日頃の様子から非認知能力の育ちに気付くことが保育者として大切だとされました。武蔵野大学教育学部幼児教育学科准教授今福理博先生子どもの非認知能力を育む第89回夏期仏教保育講習会主催:公益社団法人日本仏教保育協会 令和5年7月24日・25日/大本山増上寺光摂殿講堂実施:東京仏教保育協会(1)第711号令和5年10月1日発行    2023.October-第711号-10

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