202304
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子ども主体の保育は「安全」ルポ『死を招いた保育』子どもの保育中の事故というものに関わり始めて22年になります。私自身、4人の子どもを保育園に預けてきて、子どもたちは楽しく元気に、いい保育園時代を過ごさせていただき感謝しています。一方で、ジャーナリストとして取材をしていく中で、保育園や幼稚園で子どもが命を落としてしまうという事例に何度も遭いました。事故に遭った子ども自身やその遺族のつらさだけでなく、事故を起こしてしまった園の人たちが苦しみ続ける姿も見てきて、そういう人が1人もいなくなるようにと強く願っています。まず幼児教育・保育でいちばん大切なのは、子どもの「いのちを守る」ことではないでしょうか。保育園や幼稚園は、子どもが安心して生きられる場所でなければいけないと思います。保育所保育指針では、擁護は、①生命の保持と②情緒の安定という2つの項目からなっています。これは「からだの安全」と「こころの安全」ということ。「いのちを守る」というのは、ただ生きていればいいのではなく、子ども「一人ひとりの存在」を大切にすること。からだの安全だけではなく、こころの安全も守られる場所でなければなりません。これは「子どもの権利」にも通じるものです。2018年から新しい保育所保育指針・幼稚園教育要領になり、その中で「子ども主体の保育」といわれるようになりました。以来、よく尋ねられるのは、「子ども主体の保育って危険な保育ですよね。子どもの好きにさせるんだから危ないですよね」という質問。これは大変な誤解です。実は、保育者たちのほうも、子ども主体という言葉にとらわれて「何も手出ししてはいけない」と誤解しているところがあります。子ども主体の自由な保育というのは、先生が何もしない保育ではありません。子どもの何かをやりたいという気持ちに寄り添う保育です。保育者の力によって、子ども自身が自分で考え、判断できるようにしていく保育ですから、むしろ安全であるはずです。私は、2011年に『死を招いた保育』という本を書いています。2005年8月10日に、ある公立保育園で起きた子どもの死亡事故について書いた本です。何が起きたかというと、Yくんという4歳の男の子が、園舎の中の絵本棚の下にある小さなスペースに入り込み、熱中症で亡くなりました。給食の配膳をしていてYくんがいないことに気がつき、外を探したりしたけれど見つかりませんでした。1時間半ほどして、園長先生が「本棚の下の引き戸」を開けると、その中にYくんがいました。救急車を呼びましたが、助かりませんでした。そのスペースは、高さ35・5㎝、奥行39・5㎝、横幅42㎝。非常に狭いです。遺族は裁判を起こし、その中で実証実験が行われました。標準体型の4歳の子が中に入って内側から引き戸を閉め、さらに中で体の向きを変えることもできました。その子の体温は本棚の中で38℃を超え、実験をやめても熱は下がらず、夜になってかえって熱は上がったそうです。実は、園児がこの引き戸の中     ~子どもの権利から考える保育の安全子ども主体の保育と子どもの安全4           同日の理事会・運営審議委員会に引き続き、万全の新型コロナウイルス感染防止対策のもと、第2回仏教保育研修会が開催されました。ジャーナリストの猪熊弘子先生から、「子ども主体の保育と子どもの安全」をテーマに、「共生」「共感」を大切にした保育のあり方についてご講義いただきました。令和4年度第2回仏教保育研修会  令和5年1月25日/東京プリンスホテル講師 猪熊 弘子 先生(ジャーナリスト/名寄市立大学特命教授/明福寺ルンビニー学園幼稚園・ルンビニー保育園副園長)(1)第705号令和5年4月1日発行2023.April-第705号-

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