iversity「物語が喪失してしまったら、人間は精神的窒息状態に陥り、息が詰まってしまう」と同氏は言います。また、科学技術の進歩とは直接関係ありませんが、今後の大きな方向性として考えられるのが「多様性(dGsの考え方の基礎としても、多様性は重要な概念の1つとなっています。こうした傾向が始まっている現代において、仏教が培ってきた思想は解決の可能性を示すことができるのでしょうか。まず自我の否定(相対化)、そして縁起の思想。平岡氏は、「無我を説く仏教の教えは見直され、重要視されていくだろう」と考えています。次に、身体性の欠如。身体というものが失われていく脳化社会においては、「修行」が心と身体をあわせた全体で人間であることを示すものになり得るかもしれません。また、「仏典」は神話の知の宝庫といえます。このように仏教思想には将来の多様な問題を解決する可能性がある一方で、日本の仏教には、檀家制度、世襲制度、戒律の欠如、教祖信仰といった問題があることを同氏は指摘。「法」にはヒントになる教えがたくさんありますが、仏法僧のうち仏教を変える原動力となるのは「僧」。「僧が法を新たに解釈し、仏を新たに創出する母体となるため、僧のもつ役割は非常に大きい」として、悟りを開いた後)」。SDも修行を続けた仏陀の例などを挙げ、僧侶が「聖性の担保」を続ける努力や、鎌倉時代に日蓮が「異端から正統へ」となり変わったように、仏教の“脱皮”と呼べるような更新をしていく努力が必要だとしました。さらに、様々な宗派を有する仏教には多様性があります。ただし、同氏が考える多様性というのは、単に多くのものが並存している「共存」ではなく、並んでいるもの同士が関係をもち、シナジーを有するもの。補い合い、生かし合う「共生」の関係です。世界平和のあり方としても、「中心を奪い合うのをやめて、みんなが納得するものを中心におけば共通認識を得ることができる」との考えを示しました。 さらにSDGsに関心がない人は、地域住民や檀信徒との交流度も低い傾向がみられました。一方で、関心のある問題に対しては実際に行動している傾向があり、同氏は「問題がないと思っていることが問題」とした上で、「僧侶が社会から取り残されていることを自覚してほしい」と会場に語りかけました。続いて、各パネラーが発題。内藤氏は、「自分の認識を疑う」ことの大切さを説き、「SDGsや人権問題への関心のなさに驚きました。今回の調査を機会として、意識を開いてほしい」と話しました。キャンベル氏は「僧侶が社会とのつながりを十分に持ち得ていない」ことを憂い、また日本人の死生観の学び直しを提案。平岡氏は、SDGsの17のゴールを個別の「誓願」に置き換えてみると仏教との親和性があると紹介しました。パネルディスカッションでは、アンケート結果を受けて、人権問題と多様性、寺院の評価制度、SDGsをどう始めればよいのか、といった討論が行われました。最後に、「記念講演で話した世界平和のあり方。共有できる目標を中心におき、その周辺で全員が手をつなぐ。中心となるのは『SDGsじゃないですか』と小谷さんに言われました。SDGsという言葉に違和感があるなら、『共生』でもいい」と平岡氏。さらに小谷氏が「究極の結論は、『衆生を救う』というのは傲慢。お坊さんも衆生もみんなが生きがいをもって幸せに暮らせる社会のためにどうしたらいいかを考えることがSDGsではないか」と討論をまとめました。だれも取り残さない社会の実現に向けて仏教を変えるのは「僧」パネルディスカッションコーディネーター兼調査報告:小谷みどり氏(シニア生活文化研究所代表理事/身延山大学客員教授)パネラー:平岡聡氏(大会初日の記念講演で講師を務める)、ロバート・キャンベル氏(日本文学研究者/早稲田大学特命教授/東京大学名誉教授)、内藤麻里子氏(文芸ジャーナリスト/元毎日新聞記者)山梨県内寺院を対象としたSDGs意識調査結果を受けて行われたパネルディスカッションでは、「だれも取り残さない社会の実現に向けて」、仏教の可能性が論じられました。まず小谷みどり氏による調査報告。調査は今年5月、山梨県内の寺院841か寺を対象に行われました。回答数284通で回収率は33・8%。調査を分析した同氏によると、SDGsについて「聞いたことがない」「聞いたことはあるけど内容は知らない」を合わせると、約3割の住職がSDGsについて「知らない」という回答でした。全体的にSDGsへの関心は高いとはいえず、行動している人も多くはないという結果で、SDGs「知らない」住職3割SDGs=「共生」でもいいパネルディスカッションの様子平岡聡氏(3)第702号令和5年1月1日発行
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