20222023
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うな何らかの式典が行われていて、それを「発会式」と表していたのであれば、必ずしも誤りではないということになります。もしそうであるならば、意識的か否かはわかりませんが、短い文章の中で、「ようやく」という言葉が3回も繰り返されていることから、前年に協会が創立されてはいても、青柳にとって、1929(昭和4)年という年時が、本格的に協会組織が確立された時期であるという認識が強かったということを意味しているといえます。たしかに、1928(昭和3)年に協会が創立されたとはいえ、同年の大きな動きとしては、事務所の設置や御大典記念事業としての発会式開催くらいですし、資金が十分とはいえない状況だったため、実際的に事業を展開することが難しかったのかもしれません。「各宗派の宗門の主事の人たちに役員になってもらって、会費を納めてもらい」と青柳が述べていた時期が、1928(昭和3)年かではありません。しかし、実際に会費が集まらない状況があったとすれば、富田斅純が「各派より代表者が協会理事となり」(『登々勢の営み』)と述べていたように、宗務所に所属するような宗派ごとの代表者が理事となって協会運営に携わるような改革を経て、各宗派によって支援が行われる組織体制が確立されたと考えられます。育』第687号)、1928(昭和3)年に協会が創立されたことは、確かな事実です。しかし、青柳は「昭和4年に仏教保育協会っていうのが誕生」と述べていたり、さらには、「仏教保育の全国的な組織として、昭和4年に設立された日本仏教保育協会がある。」(「仏教幼稚園界の展望」お茶の水女子大学『幼児の教育』編集委員会『幼児の教育』第54巻第6号)とも述べたりしています。前者は1985(昭和60)年に刊行された書籍から、後者は、それよりも30年前の1955(昭和30)年に刊行された雑誌の記事からの引用であることから、戦後、比較的早い時期から、青柳は、1929(昭和4)年に協会が設立されたという認識だったようです。ところで、前者の引用文の最後に「発会式」とありますが、これが、1928(昭和3)年10月に御大典記念事業として行われた「発会式」のことを意味しているのであれば、「昭和4年」という表記は誤りということになります。その一方で、1929(昭和4)年に協会の創立を披露するよ佐藤成道33333333333   はじめにちょうど1年前の12月号(第689号)から、「仏教保育協会と各宗派との関係性」と題してお話をしてきましたが、一連の話題は今回で締めくくりとなります。前回は、理事を中心とした顔ぶれを紹介しながら、各宗派の代表者によって理事が構成されていたことについて見てきました。もちろん、すべての理事が宗派から選出されていたかどうかは不明ですが、宗派ごとに一定の枠が設けられていたことは確かです。今回は、理事が担っていたある重要な役割を象徴している、このような仕組みをもとに、理事と各宗派との知られざる関係性を紐解きます。青柳義智代の表する「昭和4年」とは仏教保育協会の設立当初に委員を務めていた青柳義智代は、戦後に理事長を務めるなど、協会にとって重要な役割を果たしていた一人です。これは、以前にも引用しましたが、青柳は協会の創立をめぐって、次のように述べています。(堀緑羊が)宗務所を一軒のこらず、丹念に訪問してね、少しずつ同志を集めたんです。そしてよ3うやく昭和4年に仏教保育協会っていうのが誕生したんですよ。しかし、ようやく組織して、会則なんかつくったんですが、誰も会費を納める人がいない。自分のところだけで社会奉仕すればよいという考えが強いのね。しかし、それでは発展しませんよ。それで、各宗派の宗門の主事の人たちに役員になってもらって、会費を納めてもらい、ようやく発会式になったわけです。(『私立幼稚園の昭和史』、冒頭括弧内・圏点筆者)これまで、仏教保育協会の創立年をめぐっては、多くの紙幅を割いてきましたが、新聞記事などからも(「日仏保の歩み⑬」『仏教保各宗派による支援の実態富田斅純や青柳義智代が言及していたように、理事は、各宗派によって選出された関係者が中心となって務めていましたが、実際の支援の有り様は、どのようなものだったのでしょうか。ここでは、主として3つのことを例示したいと思います。なお、当時の金額から現在の2022(令和4)年の価値への変換につきましては、日本銀行が公表している「企業物価指数」における「戦前基準指数」(暦年単位での平均)を参考にしています。1つ目は、特別会員である理事の年会費です。年額は5円で、普通会員の5倍もの額です。現在の価値では、理事一人につき年額は5︐700円ですが、最近の物価高騰の影響から、去年の12月号で算出した年額よりおよそ200円も上がっています。2つ目は、年度予算です。例えば、1934(昭和9)年度の「収支予算報告」では、総収入1︐320円のうち、「各宗宗務院所補助金」として390円が計上され、全体のおよそ30%もの割合を占めていました。これは、現在の価値にすれば、約116万円のうち、各宗派からの支援が、合計で約3つ目は、定期的に開催される行事です。例えば、現在でも戦前からの継続開催数を冠して開催さ《日仏保の歩み⑱》―戦前編「仏教保育協会と各宗派との関係性(4)」―1︐常仙寺副住職 淑徳大学アジア国際社会福祉研究所リサーチ・フェロー/曹洞宗10月の発会式の前か後かは、明ら令和4年12月1日発行34万円にも上る予算額です。第701号(2)

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