202210
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札幌大学 教授 写真家・映画監督 浄土真宗本願寺派 教恩寺 住職 徹宗氏 釈 本田優子氏今津秀邦氏やなせなな氏て幼稚園の砂場で学んだ』を例に挙げます。フルガムが「生きるために大切なこと」を書きだし、そこから年月をかけて取捨選択した結果残ったものは、大人になって学んだ難しいことではなく「幼稚園で学んだことばかりだ」という気づきを紹介しました。そして日本の幼児教育や保育ならではの素晴らしさに目を向け、自らの気づきについて話しました。「国内各地の園にうかがうと、地産地消への取り組み、季節の行事に力を入れるなど、それぞれの事情、地域性、気候風土から生まれてきたものを大切にしている。その保育の実践には、その場所にその園がある存在理由があります。地域との科学反応として新しいものが生まれているのです。仏教保育とは、異質な者同士の接点のインターフェイスであり、最もクリエイティブな場であり、さまざまなものを生み出す力が強く働いています。今日と明日の大会の中で、新しいものが始まっている、新しい取り組みが存在していることを学ぶでしょう」釈氏は、他にも中国の逸話「鳥窠禅師と白居易の問答」を例に挙げて「シンプルだからこその実践し続けることの難しさ」、さらには手塚治虫の漫画『火の鳥・鳳凰編』を手引きに「表現する喜び」「表現が生きる力になる」ことを読み解き、保育の現場につながる仏教的な視点をひもといていきました。翌日の分科会を前に、参加者に広い視野と深い探究心も与えてくださいました。講演を終えた釈氏を進行役に、本田氏、今津氏を壇上に招いての鼎談は、それぞれ異なる専門分野からの視点が交差し、共通の風景を見出すケミストリー(化学反応)を会場参加者が目撃する機会となりました(以下敬称略)。釈 お二人は、自然やアイヌ文化の中での経験で、私たちの日常とは異なる命への考え、自然感を持つことはありますか?私は、過去の撮影中に2度、死にかけました。北海道でエ今津 ゾヒグマと、ケニアでアフリカ象と遭遇した時です。動物たちは、私に危害を加えてもいい状況だったのにしなかった。人と人以外の動物で大きく異なるのは、動物には人間のような欲望がないこと。共存・共生という言葉を私たちは、欲張らないとイメージしますが、動物たちはいてもいなくてもいい存在と捉えている。これは人間にはない感覚です。私は大学卒業後、二風谷というアイヌの集落に移り住み11年暮らしました。その生活が私自身の軸足を築いたのですが、釈先生の講演を聞き、アイヌと仏教の世界観に共通するものを感じました。それは人として当たり前の感覚を守ろうとするならどうあるべきかという点です。アイヌは、同じ現代の日本社会の中に暮らしていますが、人間と人間以外の環境があるという世界観を持ちます。人間以外の霊魂の世界があ本田 り、カムイがそこを行き来しているという。釈 言ってみれば、自分以外の者、人間以外の生き物に実は自分は生かされているのだという感覚でしょうか。今津さんは、生かされた命を表現するために、人間以外の生命を撮り続けているのでしょうか?たとえば「山」を撮影する時にもそうしたものを感じます。人間は欲望など、余計なものを持ちすぎています。それをどんどん落とし、赤ん坊にまで戻る。そうしないと命の本質は捉えられない。釈 アイヌは人間以外の生き物をどう捉えているのでしょうか?「人間」の意味です。人間以外の環境を大きく言えば「カムイ」と意識します。カムイが動物の姿をしてやって来てくれる。今津さんの生かされたと感じている経験も、素晴らしい人間だからカムイが遊びに来て、それで帰っていったのかもしれません。釈 そうした世界観や生命観に基づいて暮らしや文化が生まれることは豊かなことですね。今回のテーマ「連なる命」は、「あらゆる生命は相互依存関係にある」「人間もそれ以外の生命も同じ」という仏教の考え方です。お二人の話には、仏教との共通点を感じました。今津 本田 「アイヌ」とはアイヌ語でやなせ氏は、19歳でデビューし、シンガーソングライターとして活動しています。30歳の時に子宮体がんになり、大きな挫折感を経験。しかし、やなせ氏はこう考えたそうです。「悲しいという言葉はマイナスのイメージを持っていますね。けれども悲しみや苦しみを避けることのできない人生をいただいていると思うのです。それらとも共に歩んでいかなければいけない」そして、僧侶の視点をいかし、いのちのぬくもりを伝える楽曲を発表し、東日本大震災の被災地をはじめ、国内各地に歌を届けています。そうした経験や出会いのエピソードをスクリーンに映し出した絵や写真を交えて紹介しながら、やさしく、時には力強く語り、歌ってくださいました。鼎談記念講演・コンサート連なる命悲しみの先に開かれる世界本田優子氏今津秀邦氏(3)第699号令和4年10月1日発行

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