2021-2022
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発災後1年間の春夏秋冬子どもたちの10年後は?《第七期 臨床仏教師養成プログラム》臨床仏教公開講座 第10講研究所主催による臨床仏教公開講座の第10講、「仏教者による災害支援─東日本大震災から10年を経て─」が開催されました。この連続講座は臨床仏教研究所による臨床仏教師養成プログラムの一環です。第7期の最終回は仏教者にとって考え深いテーマであることから、本紙でも紹介します。東日本大震災発災直後からこれまで支援を続けてきた講師の神仁先生にも、お話を伺いました。令和3年10月20日/東京グランドホテル神■■ 仁■■■    ―東日本大震災から10年を経て―「仏教者による災害支援」講師の神先生は車3台で10人ほどのキャラバンを組んで、東北入りしました。春のことでした。緊急時の災害支援の心得として重要なのは「自立完結型であること」。以前、支援に向かった僧侶の1人がガス欠になってしまい、地元の人にガソリンを分けてもらったことがあったそうです。「最低限の自分の飲食物、燃料等をもっていくこと。1週間分程度は必要でしょう。間違っても地元の人にいただくようなことがあってはいけません」と神先生。初期段階では、築地市場で仕入れた大量のフルーツや、クッキーなどの支援物資の配布や肉や魚を使って炊き出しを行いました。冷たいおにぎりやパンなどの配給が多い中では、こうしたものが大変喜ばれたそうです。被災地を回って次にやらなければと考えたのは、心のケア。被災者の方々のグリーフあるいはトラウマを、どのようにケアしていけばよいのか。神先生は帰京後、被災地で活動する「傾聴ボランティアの育成」に取り組みました。この活動が後に、臨床仏教師の資格化にもつながったそうです。また、避難所ではスペースがないことと安全性の問題から外遊びができません。そこで、被災した子どもたちを招待し、キャンプやプール遊びを提供しました。沈んだ表情だった子どもたちは、遊び始めた途端、どんどん元気に。「子どもたちにとって一番の薬は〝遊び〟なのだ」と改めて実感された「私たちにもできることをさせてそうです。夏が終わる頃には、各地で仮設住宅ができ上がりました。神先生たちは、7月頃から、ハーブティーをもって仮設住宅を回る茶話会をスタート。お話を傾聴することでこころのケア、お茶で身体のケアを行う場です。僧侶によるこの活動は、いまでは「行茶」と呼ばれて各地で実践されています。秋口になると、地元の人たちがください」と、手伝いを申し出てくれるようになりました。人は、人に施されているばかりでは、自尊感情(セルフエスティーム)を保つことができず、自分で立って前に進むことができません。ですから、支援を押しつけることなく、状況を見極めながら、少しずつお任せしていくことが大切です。冬には、仮設住宅の住人からコミュニティースペースが欲しいとの相談を受けて、区域内に集会所を建設しました。そのためには資金調達のご苦労があったとのこと。お話の後半には、新型コロナ禍による子どもたちの現状について、講座の前週に現地で聞いた学校関係者の声の紹介もありました。・「総じて学力の低下がみられる。雇い止めに遭う、離婚でシングルマザーになるなど経済面での不安定さから学習環境が悪化しているようだ」・「リストカットを繰り返してしまう生徒がいる」・「新型コロナ禍が加わり、生徒や保護者は二重のダメージを受けている。ひとり親家庭が増加。自分自身に対してネガティブな感情を抱いている子が多い」いまの高校生は、震災当時には小学校の低学年くらいでした。神先生が振り返ります。「子どもたちはじっと我慢していたと思います。親に迷惑をかけてはいけない。泣いてはいけない。甘えてはいけない。そんな辛い時期を過ごしました。仮設住宅や震災復興住宅へ移った後も、大人の顔を気遣って自分の思いを表出できず、心が病んでいった子もいます」そうした子どもたちの中に、子ども体験が十分にできなかった反動が出てきているのではないでしょうか。支援を続けてきた中で、心理面の問題から高校卒業間近まで言葉を発することができなかった女の子もいるとのことです。神先生は、「震災はまだ終わっていない、いまも苦しんでいる人が沢山いるのだということを、少しでも感じて頂けたら有難い」と、参加者に呼びかけました。講師紹介講師 私自身は学生時代から障がい者支援をしてきました。阪神淡路大震災の初期段階で動けなかったことに悔いがあり、2007年に起きた能登半島地震から緊急支援活動に取り組んでいます。全青協は、東日本大震災では、物資の配給、行茶活動、学校訪問、奨学金制度(あおぞら奨学基金)などを実施してきましたが、コロナ禍で状況が悪化し、苦しみが繰り返されていると感じています。仏教者としての使命は、ご本人の感じていることを大切にしながら、亡くなった方の「見えない〝いのち〟」とご遺族の「見える〝いのち〟」とのつながりを構築していくこと臨床仏教研究所研究主幹全国青少年教化協議会常任理事東京慈恵会医科大学附属病院SCW10月20日、東京グランドホテルにて、公益財団法人全国青少年教化協議会(以下、全青協)・臨床仏教令和4年1月1日発行ででははなないいででししょょううかか。。10年前の東日本大震災発災後、第690号(6)

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