2020-2021
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はじめに公益社団法人日本仏教保育協会は、オンラインでの研修会開催を決定しました。「令和2年度仏教保育研修会」として、全3回のオンライン研修を順次配信しています。配信の冒頭には、髙山久照日本仏教保育協会理事長よりご挨拶がありました。「今年度の本協会の事業につきましては、コロナウイルス感染拡大を受け、大幅に縮小の状況にあります。本来6月および7月に開催を予定していた仏教保育研修会と夏期仏教保育講習会も中止となりました。このような状況下で種々検討の結果、加盟園の設置者・職員向けにオンラインによる研修の開催を行うことと致しました。講義をご視聴いただき、大いに保育の参考とされることを願っております。」以下、第1回として配信された佐藤達全先生の講義内容を紹介します。この1年間を振り返りますと、新型コロナウイルスのニュースがテレビや新聞に登場しない日はありませんでした。突如として世界中に猛威をふるい始め、病気の専門家でさえもわからないことばかり。感染を防ぐにはどうしたらよいか、どのような薬や治療法が効果的かといった方法論も確立しているわけではありません。私が日本仏教保育協会とのご縁をいただきましたのは、平成7(1995)年4月のこと。月刊誌『仏教保育カリキュラム』に「やさしい仏教入門」という連載を始めました。お釈迦様の教えの基本お釈迦様の教えを保育に活かす私は群馬県の田舎にある曹洞宗寺院の住職の子どもとして生まれ、父の気持ちに押されて仏教学部に入学しましたが、卒業後すぐに寺の仕事をすることは断り、28歳で大学院を終えて群馬で短期大学の専任講師となりました。そのような経歴から連載の依頼があったのだと思います。それから現在まで幾度も連載を担当させていただく中で、保育は「大切な子どもの〈いのち〉を保護しながら、自立した社会人として自分の〈いのち〉を大切にできる人を育てる」という重要な役割を担っていることを伝えてきました。私は医学的な事柄には素人ですが、新型コロナウイルスの感染が終息しない状況の中で、仏教保育のあるべき姿についてお話をさせていただきます。仏教というのは「〈いのち〉とは何か、その〈いのち〉をどのように生きたらよいのか」という重要な問題の答えを示したもの。つまり、「仏教は〈いのち〉についての教え」というのが、私の考えです。お釈迦様は「諸行無常」と「諸法無我」という、〈いのち〉についての大切な考え方を示してくださいました。諸行無常は「生まれてから成長して年をとり、いつか必ず終わりの日がやってくることを忘れないで一日一日を大切に生きましょう」という教え。諸法無我は「私たちは、自分以外の多くの〈いのち〉と関わり合い、生かし合っているのだから、自分も自分以外も大切にしましょう」という教えです。そして、「天上天下唯我独尊」。私はこれを「誰の〈いのち〉も順番がつけられない大切なものであることに気づいて大切に生きましょう」と受けとめています。一人ひとりが皆、素晴らしい〈いのち〉だと気づけば、誰もが自信をもって前向きに生きられると思います。私は「中道」の教えこそ、〈いのち〉の姿や仕組みを正しく表していると受けとめています。中道とは「偏りを避けること」ですが、私は「2拍子の〈いのち〉のリズム」だと考えました。心臓の鼓動も呼吸も、緊張とリラックスという2拍子のリズム。中道の教えは、まさに活動と休養のバランスを保つことの大切さを示しているのではないでしょうか。ところで、お釈迦様の考え方の基本として、苦しみや悩みを解消するために必要な道筋「四諦(したい)」の教えがあります。苦しみから目をそらさずに向きあう「苦諦(くたい)」、原因を見つける「集諦(じったい)」、原因を取り除く方法を考える「滅諦(めったい)」、そして、その方法を実行する「道諦(どうたい)」。お釈迦様は、このように冷静に筋道を立てて物事の本質を見ることの大切さを示されたのです。先の見通しが立たないと人は不安になるものです。しかし、このような時こそ、いたずらに不安を募らせるのではなく、「四諦」の教えのように冷静に考えることが必要でしょう。また、「中道」の教えから、緊張とリラックスのバランスをとることも重要です。園にいる時に、子どもたちが「ホッとできる時間や場所」を工夫してみましょう。寒い日には日だまりで何度かゆっくり深呼吸をくり返すうちに心が落ち着いてくるでしょう。保護者や、先生たちも大変な毎日を過ごしているはずですから、「ねぎらいの言葉」をかけてはいかがでしょうか。心のこもったひと言が心に沁みて、元気が湧いてきます。皆で心をひとつにして困難な状況に向きあっていれば、きっと安心して暮らせる日が戻ってくるでしょう。以上で、私のお話を終了させていただきます。ありがとうございました。(第1回配信期間令和2年12月8日10時〜令和3年1月8日17時)講師 佐藤達全先生(育英短期大学教授)オンライン主催:公益社団法人日本仏教保育協会第1回「新型コロナウイルスの感染と仏教保育」令和2年度仏教保育研修会 (3)第679号令和3年2月1日発行

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